夕暮れの中、
何処へという理由でもなく歩いていると

何故かこの教会に足が向いてしまうんだ。

あのパイプオルガンの音も
聖堂のお高く止まった高潔さも嫌いなのに

好きなんだよ、ここの主は。
ああ認めるよ否定しないよ肯定してやるよ。

犬っころが毎日一定の散歩道を行くように
一日に一回は
あの似非聖女の顔を見なくてははじまらなくなっていやがる。

ドアに手を掛けてみるが
鍵がかかっている。
ぐるりと裏側に回っているが
・・・・・・・・・・あの女、どこかに出かけているらしい。

せめてもの抗議を含めて
扉の前で不貞寝を試みる。

・・・・・・・・・・・・いや、居て欲しい時にそこに居ろ、だなんて
俺のエゴだって知っているけど。

「･･・・・・・・・・・・・・・・・・不法投棄された犬は保健所に連絡するんでしたっけ？」

不機嫌な声が頭の上から降ってくる。

「･･･一応俺捨て犬じゃないんだけど･･･」

「なら迷い犬ですか？家に早く帰って骨でもしゃぶっていなさいな」

横をすり抜けて首にかけていた鍵を鍵穴に通す。

「お前に会いに来たって言ったら･･･どうする？」

「なんだか素直すぎて恐ろしいわ。私を騙すつもりかしらこの悪魔」

口調は辛辣だがさほど怒っているというわけではないらしい。
長椅子の間を抜けてパイプオルガンへと歩いていく。

彼女の手には、デパートの紙袋が下がっていた。

「なに、買い物行ってたの？誘ってくれれば一緒に行ったのに」

「･･･今日は遠坂凛に誘われました。
　貴方を連れ出す道理はありません」

「へえ･･･女の子同士で仲良くお買い物？」

「・・・・・・・付き合っただけです」

その紙袋は、無造作に床に落とされた。
ぽす、という音が妙に耳に残る。

「何買ったの？」

「関係ないですよ。きっとそのうち廃棄するかチャリティーバザーです。
　今日は、遠坂凛やセイバーに間桐桜･･･ライダーも居ましたっけ、と
　買うことそのものを楽しんだだけ」

「珍しい。廃棄、なんて単語がお前から出てくるか」

「私には本当に必要ないものですから」

手から落ちた袋には目もくれない。
彼女は、日々の務めを果たすため、オルガンに向かう。

「・・・・・・こんな素肌を水辺で晒さないくらいには常識があるんですよ」

水辺で素肌。

「包帯だらけの腕。痣だらけの足。
　他人から見ていてこれほど不快になるものも珍しいでしょう。

　せっかくのレジャーなのに、
　いちいち水を差したくない」

いつもと同じ音楽に
悲しみがよぎったように思えたのは俺の主観か。

いつだって他人に利用されて。
他人のせいで傷ついて。

挙句の果てに、この紫陽花は
自分の綺麗に色づいた姿が
他人を不快にすると・・・・・・・・・

認められるか。

「きゃっ･･･アンリマユ？　どうしたんですか？」

どうした？
そんなこと俺が聞きたい。

ああ畜生、変な抱え方したせいで腕がだるい。

「降ろしなさい！降ろしなさい！･･･お座り！ハウス！」

・・・・・・・俺は本当に犬認定か。

足で強引にドアを蹴り上げて
・・・・・・・・・・ここでいいか。

「やめなさい！まだ昨日のお風呂の残り湯が・・・・・・・・・・」

やめろ、降ろせと言われたんだから
素直にバスタブの中に降ろしてやる。

当然カソックは着たままで降ろしてやったので

濡れ聖女。一丁あがり。

「駆除してもらうわこの駄犬････！全くどうしてくれるのよこの服…」

「水遊びにはもっとふさわしい服があるだろうが」

「･･・・・・・・・・・・・・・・・・・！」

「着たいなら着ればいいだろ？
　他人の目なんて気にしなきゃいいだろ？

　他のニンゲンのためなんかに・・・・・・・・・」

自分の幸せを犠牲にすることなんて　ないのに･･･

「・・・・・・・・・馬鹿な犬」

ざぶ、と音を立てて立ち上がる。
ざぶざぶぽたぽたと水が滴り落ち、

服からも、髪からも。

「・・・・・・・仕返し！」

聖骸布が俺の視覚を覆い
身体の自由を奪う。

ざぶ、と音がした後は
俺も一緒に濡れ犬。

「･･･服を着たまま入浴する気持ち悪さが判ったかしら？」

「ああ。重たいし冷たいし碌なことがない。
　でも･･･お前も俺も･･･楽しんでいるからそれでよしじゃね？」

「まぁ･･･否定はしません」

その顔には
悪戯が見つかった子供のように
あるいは何かをやり遂げた大人のように

きらきらと笑顔が輝いていた。

「水遊びをするなら、もっとふさわしい服、ね･･･
　アンリマユ。今日買った水着、少し着てみようかしら。
　･･･待ってて。今持ってきます」

カソックだけその場に脱ぎ捨てて
バスタオルを羽織って聖堂に向かう。

「どーせすぐに脱がすし構わねーけど」

という俺の言葉は
彼女に当然聞こえるはずもなく。

「それ･･･今から水着着るの？」

「失礼な。今着ているのがそうですよ」

「･･･包帯だろ？」

「水着です！」

「露出狂？」

「水着です！」

「約束の四日間」企画
一日目は「アンリとカレンでラブラブ」です。
あと、カレンにはざぶーん水着イベントがないので補完っと。

公式様ですでに水着カレンは公開されましたが

「いやいやいや。普段が『はいてない』子なんだから
　水着はさらにすごいだろ」

と思い
どこまで際どいデザインなのか読者の想像に任せるようなものに。

多分ヒモ水着というか糸水着というかそんな感じ？

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