朝、目が覚めるたびに

目を開けるその瞬間に

どこかで期待してしまうのは

いけないことなんだろうか?



あの奇跡を、もう一度って。

「・・・あれから、もう一週間なんですよね?」

 

部室の窓から朝日に照らされた野球グラウンドを眺めながら、凪はそうつぶやいた。

 

「え?」

 

牛尾キャプテンから命じられたボール磨きの手を止めて猿野は聞き返した。

それと同時に、このオイシイ状況に気がついた。

ふたりっきり。

 

今日一緒に朝練のかたづけ当番をしているスバガキは音符くんとどこかに行ったらしい(まさかさぼったわけではないのだが・・・)

檜も一緒のようだ。

 

ここで好感度アップを狙わなければ・・・

猿野は胸の中で勝鬨を上げる。

 

とにかく、凪さんが自分なんぞのために振ってくださった話題に応えねば。

 

「一週間?」

 

「ええ。・・・私たちの体が入れ替わってから。」

 

「あ・・・っ。」

 

周りのみんなには、信じてもらえなかった話。

(凪のその日一日のがさつさやおかしさを肌で感じ取っていた子津はなんとなくうなずいていたのだが)

夜摩狐神社に行った翌日一日だけ、猿野と凪は体が入れ替わってしまっていた。

一日過ごして寝て起きたら元に戻っていたのだが。

 

「〜〜、あー、もう一週間にもなるんでしたね。」

 

「ええ、一週間。・・・猿野さんはこの一週間、早く過ぎたと思いますか?」

 

「・・・あの日はいろいろありすぎてめまぐるしかったから、そのあとはものすごく早く過ぎた気がするッスね・・・」

 

確かに、と凪はうなずきまたボールに目を落とす。

 

「自分がうっかり願っちまったこととはいえ、やっぱりもうあんなこと、ごめんですよ。ね、凪さん」

 

自分は一日だけとはいえ凪さんになれたのだが、

凪さんからしてみたら自分になっちゃうなんて本当にとんでもないことなんだから。

 

こんな素行の悪いエロ猿なんかになっちゃうなんて。

 

「たしかに大変でしたけど・・・」

 

「え?」

 

「もう一度くらい、ああいう体験してもいいかなぁって思っちゃいます。・・・普段じゃできない体験でしたから。」

 

凪は、まるでイタズラをする子供のようにくすっと笑ってみせる。

 

「・・・・・・・」

 

猿野は、そんな凪に改めて見惚れてしまう。

しかし、次に出た言葉は幸せいっぱい夢いっぱいな猿野の気持ちを砕いてしまった。

 

「今度は・・・犬飼さんと入れ替わってみたいですね・・・」

 

猿野は、一瞬で灰になった。

サラサラと自分の足元が崩れ落ちていくのが分かる。

 

確かに、思ったさ。

自分になっちゃうなんてとんでもないって。

 

でも、凪さんは犬飼に、あのコゲ犬になりたいって。

なりたいって。

 

 

 

それからの猿野はグラウンドのトンボがけが終わった兎丸と司馬の横をまるで屍のように通り過ぎて教室に向かい、

1時間目から4時間目までただの一秒も寝ることなくノートを勤勉にとり、

昼食は「よかったら食う?」と自分のご飯を沢松に差し出す

普段からでは考えられない猿野になってしまっていた。

 

移動教室のとき、偶然犬飼とすれ違ったときも

にらみ合いを始めるどころか

犬飼に向かって切ない眼差しでため息をつき一礼してその場を去ったため

辰良川が「!?」と言葉にならない声を上げながら

眼鏡をクイックイッと上げ下げしていた。

 

いくら猿野がおかしくなっても

周りの人間がいくらそれをいぶかしがっても

放課後は来る。

 

朝も部活があり放課後も当然練習をするため

学校にまるで部活のみのために来ているような心地がする。

(・・・きっとキャプテンはそうだ。

そう十二支メンバーは頑なに信じている)

 

練習中も猿野はあからさまにおかしかった。

 

円陣を組んで士気を高めようってときも一人その輪から外れてグラウンドの隅でいじける。

 

獅子川先輩のあつっくるしい発言にも

「・・・若いってパワーがあっていいですね・・・」

と軽くスルーして先輩を驚愕させる。

 

みかねた虎鉄が「そんなんだったら凪をとっちゃうZE」とケンカを吹っかけても

「敵はアンタじゃないんですよ・・・」

と軽く落ち込んでみせる。

 

・・・・鹿目のほっぺたは相変わらずつつく。

 

楽しい練習はあっという間。

夕焼け小焼けで日が暮れて。

 

 

牛尾キャプテンの考えならば

「もうこのままいっそ夜中まで・・・いやむしろ徹夜で練習してみんなでキレイな朝日を拝みたいね!!」

と言っちゃうところだが

あいにく学校には部活動活動規則なんてものがあり

日の入りと共に今日は解散と相成る。

 

猿野は相変わらず抜け殻も同然だ。

のろのろと服を着替え(ボタンの掛け違えを司馬から無言で指摘され)部室をあとにする。

沢松は今日もまた報道部で遅くまで打ち合わせをしているらしい。

 

やぶれかぶれとは、こんな感情を言うのかもしれない。

何に自分が嫉妬しているのかすらもう分からない。

 

凪さんは、自分と入れ替わったあの一日がやっぱり嫌だったんだ。

とんでもない災難だったんだ。

そうだよな。

だって、オレこんなだし。

 

今まで何をしてきても自分を恥じることはなかったが、

今、切実に思う。

こんな自分変えたいな、と。

 

大好きな人に誇れる自分でいたい。

大好きな人に「選んで」もらえる自分でいたい、と。

 

ふと、顔を上げるとそこには

凪が立っていた。

 

「あの・・・猿野さん。

 今日、ずっとなんだか様子がおかしいんですが・・・

 どこか具合でも悪いんですか?」

 

「あ・・・いえ、そんなんじゃ・・・」

 

顔を見られると感情を悟られそうでこわいから

つい下を向いてしまう。

 

「あの・・・ひょっとして・・・

今日の朝、私があんなこと言っちゃったから、それで・・・?」

 

「・・・そんなんじゃ・・・・それじゃ、また明日・・・」

 

「あの!!猿野さん!!・・・私が犬飼さんと入れ替わりたいって言ったのは!!」

 

「その話はもういいんですって!!

 

「いいえ!!聞いてもらいます!!」

 

いつになく凪は強い語気で発言する。

こんな強気な凪は初めてかもしれない。

 

「私は、・・・ですよ?今度は犬飼さんと入れ替わりたい。

 そして、また皆さんと野球をしてみたい。

 そして、・・・そしてですよ?

 マウンドに立って、そこから剛速球を投げて

 猿野さんのあの豪快なバッティングを

 一番の特等席で見たい。

 

 私の投げたボールを打ち取れなくて

 本気で悔しがる猿野さんを見てみたい。

 

 速球を真正面で捕らえて

 カッキーンって綺麗な音を立ててとんでいくホームランを

 一番の特等席で見てみたい

 

 ・・・それだけ・・・なんです・・・」

 

それだけ言うと

今度は凪の方が下を向いてしまう。

 

「は・・・ははっ・・・」

 

猿野の顔に笑みがこぼれはじめる。

しまりのない顔だな、と自分でも分かる。

けれど、うれしくって仕方ない。

 

自分の・・・自分で言うのもなんだけど

一番カッコイイところを

特等席で見たいと言ってくれる人が居る。

 

それは、なんて幸せなことなんだろう。

 

「・・・って、あの一日だけあんなことがおきたのも奇跡です。

 二回目、なんて願ったらバチがあたっちゃいますね」

 

さて、明日も早いです。

そういって凪は猿野に別れを告げようとする・・・。

 

猿野は、無意識に凪の腕を摑んでいた。

 

「・・・猿野さん!?」

 

「二回目・・・願っちゃいましょうよ。

 お暇でしたら・・・夜摩狐神社に寄って帰りましょう?」

 

 

 

 

 

 

そのあと

 

「普段は絶対こんなことしないですよ」

 

「確かに」

 

そうつぶやきながら500円玉を賽銭箱に入れ

二人で同じことを願い

「かないますように」

 

そうつぶやいてもう一礼した。

 

 

「・・・・フン。だーれがバカップルのノロケな願い事なんて叶えるか!! この不心得者!!」

 

そうつぶやくガラの悪い巫女がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

おまたせしました!!

100HITS小説書きあがりました!!

ネタをいくつか考えてそのなかから絞り込んで・・・

なかなか楽しかったですけど時間はかかった作業でした。

 

猿鳥っていったらやっぱりいれかわりの話がインパクトに残ったので結局このネタに落ち着きました。

できるだけ十二支メンバー入れたかったのでこちょこちょ小ネタもはさんでみたり。

どうしても狐ちゃんは書きたかった(腹黒大好き・・・)

 

それではきづき様!!

リクエストありがとうございました!!

100HITも皆様のおかげです。

ほんとうにありがとうございます。

またよろしくお願いしますね!!

 

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